猫を抱いて象と泳ぐ(著者/小川洋子)

猫を抱いて象と泳ぐ(著者/小川洋子)

小川洋子さんは私の好きな作家さんの一人です。
そして、今まで読んだ中で一番好きで大切にしたい小説が『猫を抱いて象と泳ぐ』です。

私のブログでは、猫の本というカテゴリーを設け、レビューを書いていますが、猫は脇役の場合もあります。
この小説でも猫は脇役ではありますが、とても重要な位置にいます。

主人公は生まれた時に唇が閉じた状態で生まれた少年です。
唇を開けるために手術をしますが、移植に脛の部分を使ったので、毛が生えてきます。
唇は脛毛がからまるし、唇のせいでいじめにも合います。少年はあまり喋りませんでした。

チェス自体が静寂の中で行われるゲームですが、この少年が無口な方ということも小説全体に無駄な音が省かれた静けさを漂わせています。

ある事件がきっかけで、回送バスで暮らす太ったおじさんからチェスを教わり、少年はチェスとしての才能を開花します。
その時に重要な位置を占めているのが、猫。太ったおじさんが飼っている猫で、チェスの駒のひとつ「ポーン」という名前をつけられています。(駒のポーンは前進しかできない歩兵で単体では最も弱い駒 ポーン-Wikipedia )猫は白黒の斑模様でいつもチェス盤の模様のテーブルの下にいました。そこが基地なのです。
この猫を抱いて少年はチェスをしていました。
つまり、少年はどこでチェスをするようになるのでしょうか?

彼は後に「盤上の詩人」と呼ばれたアレキサンドル・アリョーヒン(アレキサンドル・アレヒン-Wikipedia)にちなんで、リトル・アリョーヒンと呼ばれるようになります。

リトル・アリョーヒンになってからも猫のポーンはずっと一緒でした。

猫のポーンを抱いてチェスをすると、適度なリラックスを与えられるのでしょう。
猫のふわふわした毛と温かい体温、どこから聞こえてくるのか、内側から届く音。

あまり書いてしまうとネタバレしてしまうので、ここまでにしておきましょう。

本当に素敵な物語なのです。
小川洋子さんの独特の雰囲気が本当に丁寧に一語一句美しく流れてきて、映像が浮かびますし、とても臨場感があるのです。
丁寧に丁寧に美しく編み出された物語を、私も大切に大切にほどけないよう丁寧に読みました。
よく小説を斜め読みすることもあるのですが、一切許しませんでした。
読み終わるのがもったいない、いつまでも読んでいたいという気持ちが余計にそうさせるのです。

読み終えた時、静かな深い感動が私に流れていました。
号泣ではなく、静かに涙がこぼれてきます。

猫を抱いて象と泳ぐ